街の時計屋

生まれ育った地元に、昔から変わらず続いている時計屋があります。

私が生まれる前からそこにあり、小さい頃、祖母に連れられて何度か訪れたことがあるような...

ただ、その記憶は正直なところ、かなりあいまいです。

それでも、店構えだけははっきりと覚えています。
駅に行く途中や買い物の帰り道、特別な用事がなくても、いつもそこにある存在でした。

つい最近、息子の習い事の空き時間に、腕時計の電池交換をお願いしようと思い、その店に入りました。

カウンターの向こうにいらしたのは、子どもの頃から見かけていた「おばあちゃん」でした。

年を重ねられているはずですが、手つきには一切の迷いがありません。

裏蓋を開け、電池を交換し、作業はすぐに完了。
本当に、あっという間の出来事でした。

革のバンドもその場で選ばせていただき、そのまま付け替えてくださいました。
余計な説明や、売り込みのような言葉は一切ありません。

この場所で何十年もの間、
止まってしまった時計や、調子の悪くなった時計を、数えきれないほど直してこられたのだと思います。

入学祝いの時計や、
節目の記念に贈られた時計、
大切な方の形見の時計も、
きっとこの店を通ってきたのでしょう。

お会計は、こちらが少し戸惑うほど良心的でした。
利益よりも、お客さんとの関係を大切にされてきたことが伝わってきます。

「また、時計のことで困ったら、いつでも来てね」

その一言に、
長い年月の中で積み重ねてこられた信頼と時間を感じました。

最近、「サービスとは何か」について考えることがよくあります。
便利さやスピード、価格だけでは測れないものが、確かに存在します。

人は、結局のところ感情で動きます。
安心した記憶、
大切に扱ってもらえたという実感、
名前も知らない相手でも、きちんと向き合ってもらえた体験。

それらすべてが、「またここに来たい」という気持ちにつながるのだと思います。

時計は時間を測る道具ですが、
この店は、人の時間そのものを、静かに支えてきた場所なのかもしれません。

同じ場所で、世代を越えた記憶が、少しずつ重なっていく。
そんなことを想像しながら、店を後にしました。

続きをみる

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です