永遠のシルヴィ・ギエム

約10年前、日本での引退前、最後の公演。
DLC代表の岩本は客席にいました。

舞台が始まる前から、どこか空気が違っており
「これが最後なんだ」という言葉を、誰も口にしないまま、会場全体が共有しているような静けさ。

シルヴィ・ギエムは、
1965年フランス生まれ。
パリ・オペラ座で史上最年少のエトワールに任命された、バレエ史に名を残す存在です。

驚異的な柔軟性。
長い手足が描く、彫刻のようなライン。
強く、高く、正確で、少しの妥協もない身体。

けれど彼女が特別だったのは、
その才能を「完成形」として守らなかったこと。

クラシック・バレエの頂点に立ちながら、
既存の枠に安住せず、
コンテンポラリー作品へと踏み出し、
自分の身体と表現に、問いを投げ続けてきたダンサーでした。

その引退公演の“最後の場所”に、
彼女が選んだのが 日本 だったことには、意味があると思います。

ギエムは長年、日本で繰り返し踊ってきました。
熱狂ではなく、
静かに、真剣に、
一瞬の違いまで見逃さずに受け取る観客の前で。

日本の観客は、
彼女を「伝説」としてではなく、
一人の表現者として見続けてきた存在 だったのだと思います。

拍手の大きさよりも、
沈黙の深さで受け取る文化。

その場所でなら、
感傷に流されることなく、
「今の身体で、今の踊りをする」
その姿を、きちんと届けられる。

だからこそ、
最後を日本に託したのではないか。

舞台に立った彼女からは、
引退という言葉に伴いがちな、別れの演出はほとんど感じられませんでした。

そこにあったのは、
張りつめた集中と、研ぎ澄まされた静けさ。

感情を押しつけることもなく、
観客に媚びることもない。

ただ、
「私は、こう踊る」
という確固たる意思だけが、舞台にありました。

ギエムは衰えたから引退したわけではありません。

「自分の身体に嘘をつきたくない」
「納得できる踊りができるうちに、終える」

そのために、
引退の時期も、場所も、
すべて自分で選んだダンサーでした。

終わり方さえも、
一つの表現として。

不思議だったのは、
“最後” の舞台だったのに、
どこか 未来を見せられたような感覚 が残ったことです。

バレエは若さのものでも、
結果を競うものでもない。

どこまで行くかだけでなく、
いつ、どう終えるかも含めて、踊りなのだと。

それを、
言葉ではなく、身体そのもので示された夜でした。

ただ、
「踊るって、こういう在り方だったな」
そんな感覚だけが、身体に残っていた。

引退は終わりじゃない。
あの踊りは、確かに、今も生きている。

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