将来の夢
「将来の夢はありますか?」
この質問は、子どもの頃から何度となく投げかけられてきました。
進路や仕事、人生の節目において、まるで答えを持っていることが当然であるかのように問われます。
最近、その問い自体について考えるようになりました。
果たして、本当に必要な問いなのでしょうか。
あるバレエ団のYouTubeインタビューにおいて、
**平田桃子**さんが「将来の夢はありますか?」と尋ねられ、
少し間を置いてから、次のように答えていらっしゃいました。
「特に、ないです。」
平田さんは、**バーミンガム・ロイヤル・バレエ団**のトップとして、世界の舞台に立ち続けているダンサーです。
「夢がない」という言葉は一見意外にも思えましたが、同時にとても自然にも感じられました。
目の前の一日、一回のリハーサル、一つひとつの舞台。
その積み重ねそのものに、すでにすべてが含まれている。
そのような在り方を示す言葉だったように思います。
同じ問いを、まったく異なる形で受け止めた人物もいます。
——将来の夢はありますか?
「いいえ。あなたにはあるんですか?」
この言葉は、**川久保玲**氏が、
1992年の雑誌『i-D JAPAN』のインタビューで返した逆質問です。
川久保氏は1942年東京生まれ。
慶應義塾大学で美学・美術史を学び、商社勤務を経てファッションの世界へ進まれました。
1969年には自身のブランド コム・デ・ギャルソン を設立し、
1981年にパリ・コレクションへ初参加します。
黒を基調とした前衛的なコレクションは世界に大きな衝撃を与え、
以降も一貫して、流行や完成形を追うことなく、
「まだ見たことのないもの」「今ここにある違和感」を形にし続けてこられました。
将来の夢を掲げるよりも、
「今、何を生み出せるのか」
「今日、昨日とは違う一歩を踏み出せるのか」
その姿勢こそが、あの逆質問に端的に表れているように感じられます。
この考え方は、漫画『SLAM DUNK』にも色濃く表れています。
作中で 桜木花道 が放つ
「今が一番大事なんだよ」という言葉は、
単なるキャラクターの名言ではなく、
作者である **井上雄彦**さんの思想が、
桜木花道というフィルターを通して語られているように感じられます。
未来の完成形や肩書きを見据えるのではなく、
今この瞬間に、どれだけ本気で向き合えるか。
目の前の一歩に、どれだけ自分を賭けられるか。
その姿勢こそが、桜木花道という存在を通して、
読者にまっすぐに投げかけられているメッセージなのではないでしょうか。
その道の第一線に立つ方々は、
意外にも「将来」について多くを語りません。
彼らが注視しているのは、
遠い未来ではなく、
今日、今、この瞬間です。
「夢がない」という言葉は、
決して諦めや空白を意味するものではありません。
それはむしろ、
「今を生き切っている」という、
ひとつの完成された状態を示しているのかもしれません。
もし将来の夢を問われたときには、
次のように答えてもよいのではないでしょうか。
——今取り組んでいることを、丁寧に続けていくこと。
——今日を、ほんの少し更新していくこと。
それ以上の答えは、
必ずしも必要ではないのかもしれません。

